バレットグループ株式会社 後藤取締役にインタビュー
目次
組織創りにかける思いとは
バレットグループ株式会社(https://bltinc.co.jp/)は、小方代表取締役、後藤取締役、小幡取締役、大﨑執行役員の4人が立ち上げた新進気鋭のIT企業である。まず目を引くのがその成長スピードだ。2013年設立期の売上は、1億円強であったが、2015年には10億円を超え、5期目となる2017年は40億円を見込んでいるという。まさにバレット(弾丸)のような破竹の勢いである。今回お話を伺った後藤取締役は、IT領域に特化したキャリアコンサルタントというバックボーンをもっており、同社の人事戦略や組織創りを担っている。後藤氏の考えや同社の取り組みは、成長を遂げている会社の組織創りにおいて、大いに参考になるだろう。
――御社は2013年に設立後、まさに飛躍を続けていますが、本日は組織創りについて伺いたいと思います。後藤さんは、IT領域のみならず、人材系のバックボーンもお持ちですが、やはり立ち上げ時には、組織や人材に関して、かなりビジョンを練られたのですか?
そうですね、まず設立時、経営陣での組織創りにおける共通言語は「皆が人生をかけれる会社」です。キーワードで言うと「北風と太陽」だったんです。
――北風と太陽というと、童話で有名な?
ええ、北風のように「あれやれ、これやれ」だけでは社員はギュッと身を固くしてしまう。逆に太陽のように本人のモチベーションを喚起してあげれば自然と動き出す。要は力で服を脱がせる組織ではなく、服を脱ぎたいと思える組織を創る方が良いんじゃないないか、ということですね。例えば、「なんでこんな事やらなきゃいけなんだろう」とか「管理職がいないから今日は早く帰ろう」ではなくて「自分のミッションだから頑張ろう」とか「絶対に結果を出したい」と社員が思っている方が、絶対に組織として合理的だと思ったんです。
――なるほど。主体性や自主性を喚起できるような組織ですね。多くの会社が理想とする一つかもしれません。ただ、実現するのはなかなか難しいと思うのですが。
やはり、社員一人ひとりが「この会社のために頑張りたい」と思える環境を創ることでしょうか。実は、私たちが目指すのは「ベンチャーマインドを大切にした終身関係が築ける企業」なんです。今の主力であるIT領域の広告やEC、SI、人材などの事業はそのための手段だと考えていて、IT業界に業味がある、というだけでなく、私たちの考えや理念に心底共感できる人というのが重要なんです。
――御社は社内イベントを数多く実施されていますよね。それも理念浸透やコミュニケーションの一環なのでしょうか?
そうですね、コミュニケーションの場として意図的に増やしている、というのも勿論ありますが「純粋に仲間たちといるのが楽しい、もっと社員同士お互いのことを知ってほしい」と思った結果ですね。少なくとも役員陣は、社員と「どんどん公私混同していきたい」という思いがあるのは事実です(笑) 「このイベント強制参加ですか?」ではなく特別な予定がなければ絶対参加したい!という仲間たちとの時間はとても楽しいです。たとえば先日の社長小方のサプライズ誕生日会は50名くらいに声掛けして、ほとんどのメンバーが参加してくれて、最高に良い時間でした。仮にイベントとしてうまくいかなくても、それはそれで課題が見えるので次に繋げればいいだけの話です。
人材育成で大切なこと
――急成長している企業は、なかなか人材や人員が追い付かない、というケースもよくあると思います。御社は人材育成にどのように取り組まれているのですか?
リクルートの江副氏の言葉で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という有名な言葉がありますが、私はこの言葉がとても好きなんです。やはり、何よりも立場や機会が人を育てると思っています。ですから「このレベルまでできたから次」ではなく「今はこのレベルだけど目指すべきはここだからもっと頑張ろう」というスタンスで接していますね。チャレンジしたいという意志を最大限尊重します。
例えば、当社には昨年入社した桜井という社員がいるのですが、入社半年後に仙台支店の立ち上げの責任者として二か月間現地に入ったんです。本人が手を上げたのですが、最初は拠点の立ち上げ責任者なんてとても務まる経験はなかった。ただ、二か月後にはやりきって驚くほど成長して戻ってきました。これは経験しないとなかなかできない。情熱とかいうと精神論に聞こえてしまうかもしれないのですが、やっぱり情熱をもった人材、つまり情熱リーダーになれる人を見つけて育て続けることが、社員の育成という意味でもとても大切な事だと思うんです。
どうやって情熱リーダーを採用してきたのか?
――情熱をもった人がなかなか見つからない、という声も多く聞きます。
やはり採用、特に新卒の採用が重要になるでしょうね。もう、「情熱リーダー探し」と言ってもいいかもしれない(笑) 特に意識して見ている点は、自走力、胆力、素直さですね。面接で僕が熱い夢や、希望、やりたいことをとことん語ります。次がポイントなのですが、「その夢はどうやって実現するのか」「その背景にどんな覚悟が必要なのか」など、そこそこ厳しいことを倍くらいの温度感で話した後、少し時間を置くんです。やはり面接では多くの選考中の方が、自分が活躍している姿を想像して、熱くなって目がギラギラになってくれますから(笑)
結果「やっぱり無理です」「正直自信ないです」みたいなことで断られることも多いんですが、最終的に「よく考えました!」「チャレンジしたいです!」と言ってくれる人を採りますね。正直、根拠がない自信でもいいんです。何をやってきたか何が出来るかよりも、どんなことがしたいかどうなっていきたいかが大事です。学歴も見ていません。ポテンシャル採用を地でいっている感じですね。
――現在は100名程の社員がおり、新宿にオフィスを構えてらっしゃいますが、初期の頃から採用はうまくいったのですか?
最初は中野新橋のインキュベーションオフィスで立ち上げました。正直電車の乗り換えがかなり分かりにくい駅で、採用面接を組んでも乗り換えを間違えてたのか、予定を入れた三分の一は連絡もなくキャンセルという感じだったんです。だから新卒採用をやりはじめた3年前は渋谷のヒカリエにあるおしゃれなコワ-キングスペースの会議室で採用イベントをやりました。しっかりバレットグループの魅力を伝えて動機づけしてからオフィスに呼んでいました。「こんなにポテンシャルがあるのに、あえて本社はここなんだぜ!」という逆境を逆手に取ったブランディングです。しっかり共感喚起ができれば、多少待遇や条件が見劣りしても、「共に会社を創っていく」という差別化に繋がるんです。いきなり呼んだら「やばい、ここ…」って思われたはずです(笑) 本当にそう思うようなところだったんです。それでも熱意で共感する人たちはいたし、熱い仲間が入ってくれました。
――では、採用に関しては順風満帆だったのですか?
小規模だったときには一人ひとりに目が届いていたのですが、会社が大きくなり、仕事も増えるにつれて、自走力、胆力、素直さ、という基準が曖昧になった時期がありました。やっぱり仕事も増えてきて、人数が必要になってきましたし、この人なら大丈夫だろう、と少しライトに考えて採用してしまっていたかもしれない。結果、本来のバレットグループを誤解し、離れてしまうことにも繋がっていたと思います。当時は離職率も気にしていたので、「これ以上言ったら辞めちゃうんじゃないか」と本当はしっかりと伝えなければならない事を遠回しに話したり、結果的に無駄に気を使っていた時期もありました。これはやっぱり良くなかったですね。
――どうやってその状況を打破されたのですか?
一言でいうと「覚悟」ですね。もちろん社員のポテンシャルは信じるのですが、無理に引き止めることはしない。辞めることで残った人の仕事がきつくなるなら経営陣が死ぬ気で働く、俺らが責任を取る、ってね。そんな覚悟をもつとすごく楽に接することができました。結果、一緒に歩いていける社員との距離感を縮める事にパワーを使える様になりましたね。離職率は高い低いというより、その中身が大事だと思います。これは公言しているのですが、中途社員はスキルや経験を買って即戦力として期待した採用ですから、会社規模による期待と責任のバランスが崩れたり、ある程度は自分自身の責任になってしまうのは仕方がないところがある。でも新入社員が辞めるのは経営の責任だと思っています。右も左も分からない彼ら彼女らを焚きつけたのだから、それはきっちり面倒をみよう、と。
――現在はどのようにして社員を動機づけし、マネジメントを実践されているのですか?
そうですね、やはり社員と対話していくことが基本です。本社には50名ほどの社員がいますが、代表の小方が、年に二回全員と面談をしています。私も定期的に人事担当役員として各拠点のメンバーも含めて全社員と個別面談をやっています。物理的に距離がある仙台支店の社員についてはスカイプを使ったりですね。いずれにしても、一人一人顔を見て、言葉だけではなく雰囲気や表情なども感じ取ることが大切だと思います。もちろん面談だけではなくて、GEPPO(※注)を導入し、アナログとデジタルのバランスをとっています。
――ということは、本社の方は年2回の社長面談と年複数回の役員面談があるということですね。なかなかそこまでできる会社はないかもしれません。しかし、社員さんは逆にプレッシャーになったりするのではないですか?よく部下の話を聞くつもりでも、いつの間にか業務や数値の詰め会になってしまうという話も聞きます。
そこはきちんと役割分担をしています。まず数値的な目標管理は各事業部長が社員と行っています。それとは別に、私たちがモチベーション、人間関係、体調や環境面、プライベートのことなどを聞いていきます。直接の上司に言いにくいことも、素直に言ってくれたりしますよ。
実は、社員のプライベートについて、一番詳しいのは社長の小方なんです。直属の上司も知らないようなことをトップが知っている。もちろん必要だと思うことは各事業部長レイヤーに伝え、きちんと組織の状態を整えていますね。
――トップがそこまで把握されているとはすごいですね。なかなかそこまで踏み込めない、という声も聞くのですが、そこまでする背景を教えてください。
私たち役員層の、バレットグループにおける役割ってなんだろう?って考えたんですね。はっきり言って技術的な部分とか、各論は現場の人間の方が分かっていることも多いし、頑張ってくれています。だから私たちの役割は「組織のコンディションを創ること」なんじゃないかと思ったんです。そういう役割を果たそうと思うと、社員たちと個別に話していても、どんどん突っ込んで話しが広がっていってしまうんですよ(笑)
――なるほど。しかし度々全社員と面談するというのは、かなり大変じゃないですか?
もちろん二週間くらいの大半がロックされちゃうんで(笑) 大変ですが、間違いなくそれ以上の価値はあると確信しています。意外と、義務的に役員と面談せざるを得ないぞ、とすると、結構話してくれますね。
――役員層もコミットしてらっしゃるということですね。他にはどんな施策がありますか?
過去、正社員にこだわっていた時期は、本人が会社を離れるとき、その理由を、私と本人が全従業員に発表していました。もちろん、本人に確認はとりますが、「気づいたら居ない」ということがないようにしたかったんです。今でも原則的にはそのスタンスを取っていますが、やはり人数が多くなってくると様々なケースが出てくるので簡単ではないですね。インターンやパートの方、業務委託の方など、雇用や関係性が多様化して人のある程度の出入りが当たり前となったこともありますので、ケースごとに一番良い着地を考える様にしています。
あとはイベントをやるごとに、有志を募ってプロジェクト化したりもしています。リーダシップの創出やコミュニケーションを取らせる狙いもあるのですが、立場が人を育てる、という考えです。基本的に上長からの指名制ですが、新卒採用は立候補で「新卒採用チーム」をつくっています。事業部長を説得する、本業に支障をきたさない、ということが条件です。金銭的なプラスはないのですが、学生、経営層と接する機会に魅力を感じて特に新卒に近いメンバーが沢山手を挙げてくれますね。
また、口を酸っぱくして言っているのは、目的と手段、権利と義務です。人間与えられると慣れてしまう。だから「なぜこれを与えるか」「使う権利はあるがきちんと義務を果たす」ということを考えてほしい。これは朝礼や毎日誰かに話しています。
例えばランチに会社で弁当を注文すると、半額会社が負担するという制度もありました。これは事業部がいくつかあるので、会社で食事を取ることで社員交流を計って欲しいという目的でした。ただ固定メンバーが自席で食べることが多くなり制度として機能していないと判断して廃止をしたなんて事もあります。最近では9月からスタートした制度でDMM英会話の費用を、会社が8割負担しています。ただ申請制で月間8回受けないといけません。90名中30名が受講しています。もちろん僕も受講していますよ(笑)
――福利制度は、社員の権利でもあるが、きちんと使うという義務もある、と。
そうです。制度を権利だと思わせると逆に可哀そうですから。さっきの話の目的と手段、権利と義務というのは堅い表現ですが、そこを社員が理解してくれてこその制度だと思います。小方とは今のバレットグループにとって何が必要なのかなんて会話をしょっちゅうしています。
――会社のビジョンや目指す方向性を、いつも考えてらっしゃるのですね。
小方は「社長は孤独だというけど、自分には本音で話せる仲間が居て孤独を感じたことがない」って言ってくれますよ(笑)
これからの人材と組織について
――今後、必要とされる人材となるために、どんなことが必要だと思いますか?
これまで読んだ本で『ザッポス伝説』(トニー・シェイ著)というトニー・シェイの人生や考え方が描かれている本があるのですが、彼は取り組んでいることの価値が見いだせないと感じると、持っているものを捨てて、他の道を進むんです。これは衝撃的でした。そういった意味でも、いろいろな選択肢をもち、その上でやりたいことを選べている人が強いと思いますね。食っていくために仕事をしているだけの人は、今やっていることが好きで目的をもっている人には勝てないですよ。
――過去5年間は順調に成長していると思いますが、今後どんな組織を創っていきたいですか?
よくベンチャー企業と大手企業は対比で使われますが、私はベンチャーというのは考え方や文化で規模に関わらず存在しているものだと考えています。ですから、規模を基準に大手とベンチャーを比較するのはおかしいと思っています。ベンチャーマインドというは、目的を達成したり、成し遂げた時に得られるものを見い出して、リクスや障壁があっても「どうやってそれをやりきるか」をワクワクしながら話し合える文化だと思っています。私たちはいつまでも「ベンチャー」であることにこだわりたい。一生涯関係を続けられる仲間たちと、何かにチャレンジし続けて、そして達成を目指すことに価値を見出せる会社でありたいと思っています。
(注)GEPPO:株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーが提供する、従業員や組織の変化を発見するHRツール。