株式会社LIFULL 羽田執行役員にインタビュー
目次
日本一働きたい会社の採用哲学とは?
ベストセラーとなった「日本一働きたい会社のつくりかた」著者の、株式会社LIFULL(https://lifull.com/.com/)の羽田人事本部長にお話を伺った。同社は、従業員のモチベーションが高い企業を表彰する「ベストモチベーションカンパニーアワード2017」にて283社中1位を獲得、Grate Place TO Workの「働きがいのある会社」ベストカンパニーに7年連続選出されるなど、モチベーションが高い会社として有名である。そのような会社の人事責任者は、採用についてどのように考えているのか?多くの経営者や人事責任者の参考になるだろう。
(同社は2017年4月より、株式会社ネクストから株式会社LIFULLへ社名変更をしておりますが、インタビューではLIFULLという表記に統一しております。)
日本一働きたい会社になるまで
――羽田さんは人事未経験で入社し、いきなり人事全般を任された、というエピソードが書籍に書かれていました。そこから「日本一働きたい会社」への道のりは、相当な苦労があったのではないですか?
そうですね。僕は29歳のとき、中途でLIFULLに入社したのですが、実はそれまでビジネス書の類をほぼ一冊も読んだことがなかったんです。読みなさいと言われることもなかったし、周りで読んでいる人もいなかった。そもそも興味がない、まあ「意識低い系」だったんですよね。それが入社直後、当社代表の井上とリンクアンドモチベーション代表取締役会長の小笹さんやリクルートワークス研究所副所長の中尾さんの打ち合せなどに同席させてもらう機会があったのですが、びっくりするくらい話が分からない(笑) これはまずい、このままでは土俵にも立てない、と思って無我夢中で勉強を始めました。
――なるほど、どんな勉強をされたのですか?
最初は何を勉強したら良いかが分からなかったので、井上から本を借りたりしていました。僕は全体観や網羅性が気になってしまうタイプなので、まずは人事という仕事の全体を掴もうと考えました。とにかく人事に関わる本を手当たり次第読みましたね。
ただ井上や経営者と話をするためには、人事のことだけでは足りないので、マーケティングや経営戦略なども勉強しました。当時は「戦略人事」という言葉はメジャーではなかったと思いますが、当然人事と戦略は一気通貫していないといけないものですからね。そして人事という仕事柄、学生と話すことも多いので、自己啓発の本なども幅広く読んでいました。でも僕は本を読むのが遅いので、ものすごく時間を費やしました。かなりの遅読です。
――さっとポイントを掴んで読んでしまうイメージでしたが、それは意外な感じですね。
これは当社の井上も同じらしいのですが、読むとき一つ一つ「自分ならどうするだろう?」と考えて読んじゃうんですね。それで読んでみて良いな、という本は何回も読んで記憶して、社員や学生の前で話す。そうして血肉化してきました。ちょっと違うな、という本は途中でやめます。勉強するために、3時間睡眠を3年くらいは続けたと思います。当時は、風呂に入るとき以外はずっと本やネットの記事を読んでいた気がしますね。
――そ、それは凄い。遅いというより時間をかけて読むタイプなんですね。参考までに、何か印象に残った本を教えて下さい。
たくさんありますが、初めの頃衝撃的だったのは、絶版になってしまっているかもしれませんが、『進化するモチベーション戦略』(柳谷杞一郎著)ですかね。ものすごく施策がたくさん載っていて。社内通貨とかカジノ大会とか変わった施策も載っていて、「ああ、こんな風にいろいろ自由にやってもいいんだ」と思いました。
僕は人事経験がなかったから、人事のことをゼロベースで考えることができたんだと思います。「今までのやり方にこだわる理由って何だっけ?本当に意味あるんだっけ?」っていう基本的な思考が、この本の影響で、バーっと広がった感じですかね。そういう意味では自分に都合良く解釈すると、人事経験がないのも武器になるなと思います(笑)。
座右の書として折に触れて読み返しているのは『心理学的経営』(大沢武志著)ですね。僕の原点ともいえる大切な本です。
―なるほど。その発想は、御社の柔軟で多様な人事制度にも活かされているように思います。では、新卒採用のお話を伺いたいのですが、今は採用難の時代といわれています。御社では採用に関して4つのフィット(ビジョンフィット、カルチャーフィット、ポテンシャルフィット、スキルフィット)を重視していますよね。
はい、特にビジョン、カルチャーのフィットは重視していて、面接でも徹底して確認します。やっぱり当社の経営理念や企業文化に違和感を抱く人は難しいと思いますね。当社は大切にしている価値観をカードにして常に携帯できるようしているのですが、その中でも社是の「利他主義」、ガイドラインにある「革進の核となる」、「一点の曇りもなく行動する」あたりは採用時にとても意識しています。やはりお客様、ユーザーの為になることを考え、仲間と協力し、リーダーシップを発揮する、という価値観は当社にとって非常に重要です。
どのように人材を集め、採用しているのか
――ベンチャー企業の経営者からは、「新卒がなかなか集まらない、採れない」という声をよく聞きます。御社も、初期の頃は採用に苦労されたのではないかと思うのですが、いかがですか?
本でも書いていますが、知名度があまりない時期は、ベンチャー志向の学生を集められるよう、イベントを数多く行いました。今もナビサイトではなく、イベントや紹介に集中しています。きちんと採用したい学生の傾向を考えて、イベントを企画し広報をすれば、一定数は集まると思います。そのような学生に対して、社長が熱い言葉で話せば、共感して入ってくれる学生は少なからずいると思います。もちろん多くの母集団をつくることも大切ですが、当社は理念が一致した学生に入社してもらうことが一番なので、この方法が現時点では効率的だと思っています。まあ、そうはいってもかなり模索しましたので、「採用成功に奇策なし」と言えるかもしれません。
――少しうがった見方をすると、井上社長というカリスマ経営者がいるから採用できるのでは、という声もあると思います。
僕が思うに、創業社長は、必ず熱い想いやビジョンがあるんだと思います。なければ起業なんてしないでしょうし、お客さんが買ってくれるわけがない。その想いをしっかり伝えることで、結果としてそれに共感した学生が集まるのではないのでしょうか。
――採用にそんなに熱意や時間をかけられない、という社長もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、「それでは無理です」でしょうね(笑) やっぱりトップの意思がないと。特に最近の学生の傾向は、「偉くなって儲けたい」といったことに価値をおくより、「社会のために貢献したい」という学生が増えてきている気がします。そういった意味でも、待遇や条件だけでなく、理念やビジョンを社長の本気の言葉で伝えられた方が、良い採用に繋がると思いますね。ただ、社長がご自身や会社の魅力に気づいていない、表現しきれていない、という可能性はあるかもしれません。もしそうであれば勿体ない話なので、一度振り返る機会をもっても良いと思います。
――なるほど、採用でも、やはりトップの影響力は大きいですね。では人事として採用において大切なことは何ですか?
もちろんテクニカルな部分はたくさんあると思いますが、トップとしっかりと目線を合わせることが何よりも大切です。当社は「ビジョンにフィットしている人材」を重視していますが、会社が急成長していると現場から「とにかくすぐに人を増やしてほしい」という声を聞くようになります。人が必要だから採用数を増やすということは短期的には良いかもしれません。売り上げにも繋がるでしょう。ただ、そのために基準を曲げたり、緩めたりすると後々苦しくなる。理念に一致する人を採用することは長期的に見れば成果に繋がるのですが、論理的には説明が難しい。だからこそトップの「決め」が重要性で、人事、採用担当と採用方針をきっちりすり合わせておくことが絶対条件です。僕も井上の方針を理解しているし、井上も理解してくれている。だから自信をもって採用をすることができているのだと思います。
中途採用に関してはエージェントの協力を得ることを一番重視しています。ですので、きちんと当社のことを分かってもらう努力をしつつお付き合いをするようにしています。エージェントに対して、求人票だけではなくて、食事に行ったり、多くの会話をしたりして、できるだけLIFULLのことを理解してもらう。それが良い人材の紹介やミスマッチの削減に繋がるのだと思います。
社員が働きがいをもてる組織を創るために
――これまでを振り返って、うまくいかなった時期や壁にあたったときもあると思います。組織を創っていくうえでのお考えやポイントを教えてください。
会社はビジョン・計画を立て、それに基づいて商品を開発し、販売し、それらをサポートする人がいるわけですが、人事の役割といえば、それぞれのやる気やスキルを高め、組織をデザインし、配置し、必要に応じて採用することだと思います。ですから、一つ一つをしっかり、愚直に行っていくことしかないと思います。
組織運営においては、影響力がある人の声は、良くも悪くも組織に対して影響が出ますので、影響が悪く出てしまっている場合は、人事として注意をしていくことも大切な仕事だと思っています。
評価についていうと、当社の場合、人格と能力が優れた人が評価されるということにしていますが、今は転職が容易な時代ですので、社員に明示した評価基準に沿って、昇格すべき人が昇格するというこということをしっかりやらないと、社員はやる気を失い転職していきます。ですから評価基準をしっかりつくり、それを運用する部門長をしっかりと育成する必要があります。ただ、その育成には時間が必要です。3年から5年程度の我慢する時期を経て、やっと育って、回っていきます。人に影響を及ぼしてその人にやってもらうという意味では「人事を尽くして天命を待つ」ということも大切になってきますね。
(このインタビューは2017年12月8日に実施したもので、組織名、役職名、その他インタビュー内の情報は当時のものです。)