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NAB就業教育研究所 佐々木CEOにインタビュー

目次

企業は、どのように学生に接すればよいのか?

佐々木氏は、大学や企業に対し、年間300本を超える講座や研修を実施し、採用や育成の仕組みづくりを支援しているキャリア教育のプロフェッショナルである。また、佐々木氏が主宰する学生向けキャリア講座「Nゼミ」では、毎年様々な大学から集まった学生たちが、大学の枠を超えて切磋琢磨して大きく伸び、就職先でも非常に高い評価を得ている。日々、学生と企業の双方を見ている佐々木氏は、昨今の新卒採用をどのように捉えているのだろうか。

――――採用難と言われていますが、企業が学生と対峙するときに重要な点について教えてください。

まず重要になるのは、「学生が安心して話が聞ける場」を作ることです。ブラック企業やブラックバイトという言葉に代表されるように、多くの学生は日々リスクの話を聞かされています。インターネットでもネガティブな情報は目にしやすく、企業の想像以上にリスクに対し敏感です。例えば学内企業説明会のように、企業が学校側に赴きお互い安心して話ができる場を創ることが有効です。

――なるほど。まずは聞いてもらう場の設定から、ということですね。

そうですね。次に、学生に対し発する「メッセージの一貫性」が重要です。学生は企業がどのようなメッセージを出すのかよく見ています。「挑戦」「変革」といった表層的な言葉や当たり障りないメッセージでは、労力を掛けてまでその企業を理解しようとは思いません。加えて、学生に発信するメッセージがぶれていないか、という点も企業側は意識する必要があるでしょう。典型例で言うと「他社も受けていろいろな会社を見なさい」と言っていたのに、途中から突然、採用従事者が囲い込んで内定受諾を促そうとすれば、学生の入社意欲は急落しますので気をつけましょう。

佐々木氏が感じる学生の傾向

佐々木CEO

――場の設定、メッセージ、一貫性ですね。では逆に、学生の傾向としてはいかがでしょうか?

最近の学生は授業に課外活動、アルバイトで多忙です。まとめて低学年のうちに単位を取り切るなんてことも制度上できません。限られた時間の中で就職するために、割り切った感覚をもっていますね。例えばインターン選考に漏れたら、望みは無いだろうとこの会社は受けない、リクルーターの質問にうまく答えられなかったから、先々もっと大変だろうと辞退してしまう例もありました。他にも、ゼミやサークルの先輩から聞いた話はそのまま信じても、メディアが流す情報にはそれほど反応しないなど、自分に近しい人の情報だけを信じて使う傾向がありますね。これは大学がどこであろうと似ています。
また、他人に対し嫌な思いをさせることを極端に嫌うので、相手との距離を大きく取ろうとします。自分が嫌なことを嫌だと言わず、笑顔のままスーッと後退する感じ。企業側が近づいたら、気づかれないように逃げていく、みたいなことです。よくあるすれ違いに、リクルーターが良かれと思って「なんでも聞いてごらん」と学生に言うと、学生は「質問の内容を採点されてるんじゃないか」と身構え、結局沈黙してしまいます。質問したいことはあるにも拘わらず、です。「採用プロセスについて質問ある?」や、「営業職の仕事について聞いてみたいことがありますか?」と具体的に聞くようにしてください。
最近はやはり労働時間についてはかなり敏感で、制限なく働くのは厳しいと感じている学生は多いです。単なる時間だけではなく、社内のプロセスが効率化できていないという点は大きなマイナスポイントです。日頃からiPhoneとクラウドサービスを駆使している世代ですから、意思決定に至るプロセス、データと紙の混在が引き起こす無駄な作業、意味もなく書類だらけでパンパンに膨れた鞄を見れば、「なんでこんな無駄を放置したまま、残業してるんだろう」と感じ、ついていけないと冷めていきます。体育会系的なノリに喜んで与する学生も極めて少数派でしょう。大手、中小問わず、仕事が溢れ人もたくさんいてアナログで仕事を進めてきたこれまでの前提を見直して、時代に相応しい効率化を進めないと、これから働く人達には魅力を感じてもらえないでしょう。

インターンについて
――就活の時期が短縮化された時期から、インターンを導入する企業が増えました。インターンは学生の企業理解を深めるために有効な手段だと思うのですが、今年のインターンについてはいかがでしょうか?

今年はインターンを実施する企業が増え、開催頻度や日数も増えた結果、参加する学生も大幅に増えました。その一方、学生をお客様扱いしてしまった会社が多かったのではないでしょうか。これでは本来のインターンの意味が失われるばかりか、学生は不安や不信感を募らせます。先日も「グループワークがうまくいかなかったのに、やたらと褒められた。これでいいんですか?」って不安がる学生がいました。なかには職業体験からは程遠く、学生も混乱しているものも。もはや、インターンは「就活生なら一度は参加してみるイベント」になりました。今年は夏のインターンの準備のために5,6月のプレ・インターンに参加し、夏休みにインターンを受け、何を得たのかも総括できないままただ焦っている。数はこなしても、そもそも何を検証にいくべきなのか、どう使えばいいのかが分からないままだから、身にはなっていない。企業も開催することが目的になってしまい、中身が練られていないインターンが随分増えてしまった。そういう意味でも企業と学生のギャップは広がっていると思いますね。企業側も大変だとは思いますが、安心して話すことのできる場の創り方、その見せ方、何を学ばせるか等、採用設計全体のデザインをもっと工夫する必要があります。

学生との「ギャップ」を埋めるためには
――ギャップですか。学生とのコミュニケーションギャップの話はよく聞きます。

私は、社会人もさほどコミュニケーション能力が高いわけじゃないと思いますよ。コミュニケーションの中身をメッセージ、ストーリー、フルボディの3つに分解して考えると、そもそも体を使ったフルボディ・コミュニケーションは日本人が苦手とする分野なので仕方ないとしても、日頃のビジネスシーンでメッセージ、ストーリーすらちゃんと設計されていないケースが見受けられます。暗黙的に社会人としてのルールがあるから会話が成り立っているだけで、学生はそのルールを知らないからかみ合わないだけではないでしょうか。そのギャップを埋める努力をしないまま、暗黙知を前提とした雑な会話をしてしまう社会人っていますよね。やたら横文字を使ったり、専門用語を織り交ぜながら補足説明をしてくれないとか。

――学生や新卒に対するコミュニケーションに悩む大人はどうしていけばいいですか?

学生は、良くも悪くも社会人と自分たちは対等な立場だと思っています。人としては対等でも、ビジネスのシーンでは上下関係や立場の違いができることを教えてあげるべきですが、食い違ったままになりがちですね。これを埋めるには企業側にも説明し理解させるスキルが必要ですし、相当手間もかかると思いますが、早いうちから取り組む方がお互いにプラスだと思います。
社会人側に必要なことは、言葉尻や態度そのものじゃなく、どうして彼らはそう言うんだ?そんな反応を見せるんだ?と彼らの“頭の中身”やその背景を洞察することです。彼らは時に無礼な発言や場違いな発言をすることかもしれません。ただし悪気はなく、自分が言うことは聴いてもらえて当たり前、関係性は対等という意識から行動が始まるからなんです。残念なことに、教えられる機会のないままに潰れてしまう学生もたくさんいます。ですから、企業側も学生に真摯に対峙して、おかしいことはおかしいと注意をする。その際、同時に代案を示すことが重要です。「こうすればもっとよくなるよ」という意図がきちんと伝われば、学生もそれを指導と受け取れます。毎年多くの学生を見てますが、年々素直で真面目で一生懸命になっていますから。

学生に選ばれる企業となるために

インタビューを終えて

――学生は企業をどのような点で選んでいるのでしょうか?

入社先を選んだ理由を聞くと、学生は「人で選んだ」って言いがちですよね。ただ、これには二種類あるんです。一つには、仕事の進め方に自分がスムーズに馴染めそうか、上司・同僚となる人達と自然にうまくやっていけそうか、自分のロールモデルに近い社員は多いだろうか等々、人を通してその先の会社を深く分析している場合です。もう一つは、単に説明会に出てきた人事社員の見た目が良いから、優しくされて好印象だったからといった人のうわべをみて安心している場合です。採用の成果を高めたければ、会社の中でエース級の人材にも採用を担わせましょう。どちらのタイプの学生も惹き付けられますから間口は広がりますし、その後採用活動を通じて学生を伸ばし、将来有望な原石を見出すことも可能でしょう。大学の偏差値に関係なく、真に優秀な学生ほど「その会社は、自分の力を伸ばせる環境かどうか」を見ています。真面目に努力をするのは厭わず定年まで務めたいという意識も強いです。だからこそ、明らかに肌が合わない環境や理不尽な状況では長続きしないだろうと、丁寧に見極めようとしています。企業は学生から「見られている」ということをもっともっと意識すべきですよね。細かい点かもしれませんが、説明会スライドや配布物の誤字脱字、メッセージが陳腐、説明者に覇気も魅力もない、提出した書類を雑に扱われた、ただ機械的に進行するだけで熱意がないなど、学生は全て見てますよ。

――彼らに響く価値観とはなんでしょうか?

学生が心惹かれるのは、会社を背負って誠意ある発言ができ、一人の社会人として自律している社会人です。会社の悪口を言う人、働き様が美しくない人、仕事もプライベートも楽しそうに見えない人、社会のことを知らなすぎる人、全部だめです。例え仕事はできたとしても、それをうまく他人に伝えられない社会人は稚拙に見えてしまいます。仕事ができるだけではなく、仕事のやりがいや会社への思い、一社会人の先輩として考えている今後のキャリアを語れないといけません。
就職活動を真剣に考える学生ほど、キャリアや働くという事を真剣に考え悩んでいます。そういった学生に自社の魅力をより深く知ってもらい安心して飛び込んで来れるようにするためにも、採用側はしっかりと準備しておかなければなりませんし、うわべだけでなく事業や働き方、社員の方々の魅力が高まるよう磨き続けていく時代になりました。

――最後に、優秀な学生を採用したいと考えている企業向けにメッセージをお願いします。

しっかりしている学生ほど、職場の環境や制度、待遇ではなく、自分が中で何をしていくのか、自分の良さを活かせる会社かを考えています。企業側も場当たり的な施策や採用ツールの流行を追いかけるより、採用の全体像を設計することが大切です。自社が将来に渡り目指す姿を踏まえ、どんな人材をどのように育てていくのか。そのためにどんな新人を迎え入れる必要があるのか。採用のフレームワークをしっかりと描き、ストーリーをもって学生に伝えてください。

(この記事は2017年12月に実施したもので、インタビュー内容は当時の情報になります。)

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