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日本女子経営大学院 河北学長にインタビュー

目次

どうしてビジネススクールを立上げようと考えたのか?

インタビュー風景

――御校は日本初の女性向けのビジネススクールとして2015年に開学されましたが、立ち上げの経緯を教えてください。
私は大手メーカー、外資系の人材会社に勤めた後、コンサルタントとして独立し、大手自動車会社のブランド変革と組織変革を同時に展開する、販売チャネルイノベーションの教育プログラムを開発し、全国への浸透及び定着を7年にわたり展開致しました。人と組織に焦点をあて、目標成果と人やチームが成長しつづける仕組みを落とし込み圧倒的な違いを創るその成功体験を元に、組織風土改革のコンサルティング会社を2003年創業しました。
数多くの企業の内側に入りこむと、組織はなかなか望むイノベーションを起こせず固定化していること、同時に、女性の能力が活かされていない、開発されていないという「もったいない場面」を数えきれないくらい見てきました。
今、女性活躍とはじめとする多様化推進や働き方改革に、企業も数値目標だけでなく、過労死問題も拍車をかけ、残業を減らし効率化や多様な人材がイキイキ働ける制度や環境創り、そして女性のキャリア教育、管理職育成が急がれています。

この数年、かなり制度は整いつつも、当の働く女性は、「自信がない」「ロールモデルもいないし不安」「管理職になりたくない」「今のような職場環境は無理」「管理職でハイパフォーマ―、両立しながら輝けなんて、どうしたらよいかわからない」という声も。それらを解決すべく、女性リーダー教育と、組織支援を担う、民間のビジネススクールを2015年1月に創立しました。
女性に本気で「期待」をかけ、「機会」を与え、育て「鍛える」ということをしない会社が多く、それではなかなか女性リーダーが育ちません。また、しっかり経営戦略の文脈で捉え、意欲とビジョンをしっかり持っていても、どこから手を付けたらいいか困っている組織もあります。私自身は、女性であることをネガティブに感じた経験はないのですが、女性というだけで無意識に複雑なバイアスがかかることも多く(個人や企業により大きなバラつきは在りますが)そこには、性別役割意識やマイノリティ意識の既成概念、ジェネレーションギャップ、多様な価値観が混在しており、企業の中で女性を育成していくのはなかなか大変だな、と実感していました。

そんなモヤモヤした気持ちの中、ずっと自分が何を為すべきなのか、どうすれば社会課題にもっとレバレッジの利いた貢献ができるのかということを探していたんです。そしてあるきっかけを得た中で「あ、私も働く女性だったんだ」「女性リーダーだったんだ」とふと気づいたんです(笑)
問題を客観的に理解すると共に、当事者として自分の経験を振り返ることによって、自分の中にも明らかに無意識のバイアスが存在していることに気づきました。
そこで「自分の未来を創るじぶん」を育てる学校という場を創り、「働く女性の可能性を拓くこと」、「女性リーダーを育てていこう」と決心したんです。

女性の力を活かし、イノベーションが起きる組織に

河北学長

――女性の力を活かせていない、とはどんな場面で感じたのですか?
どんな環境変化の中でも、女性に限らず互いの多様性をいかに活用しあい、越境し合い、より創造性、生産生ある会議ができ、成長し続けるチームであったら素晴らしいですよね。
例えば、コンサルタント時代に、ある顧問先企業の社内会議に出席する機会がありました。部長級の男性、女性が合わせて10人程いました。しかし会議が始まっても女性は何も話さない。会議ログをつくる側に回る人、言いたそうだけど我慢している人、雰囲気を敏感に察知している人、理由は様々ですが、口を開かないんです。そして、それがおかしいと誰も思っていない。結局何もイノベーションが起きない会議でした。もちろん全ての会社がそうだとは思いませんが、会議の場一つとっても、イノベーションが起きるきっかけを失ってしまっているんです。これは勿体ないと思うことが何回もありました。
実は、その後その女性たちと話したのですが、どんどん良いアイデアが出てくる。私が「なぜあの場で言わないの?」と聞くと「言えないですよ、言っても無駄なんです。」「うちの会社はきっと10年かかりますよ。」と諦めてしまっている。属性に男女の多様性があっても、多様性の思考や視点を使い合えることはなく、これではイノベーションなど起こる筈もありません。双方に問題がありますよね。女性も自分から同化をしてしまっている訳です。或は、反対のケースもあります。男性側が女性を大人扱いせず、配慮しすぎてしまったりも見受けられますね。
本来なら、もっとシンプルにきちんと会社の戦略や夢を共有し、そのうえで異質を尊重するプロセスや、使命を理解したプロフェッショナルな態度が必要です。男女差から上下の構図を創り、諦めたり、相手に合わせてしまうのではなく、目的を共有し実行するパートナーとして、自分と異質の価値観をいかに受容し、共に使い合えるかが重要なのです。

――どちらも過渡期ということでしょうか。どうしてあえて女性限定としたのですか?
はい、そうですね。私たち全員が成熟していくための過渡期なのだと思います。ダイバーシティの時代なのに女性限定?おかしくない?と良く質問されました。(笑)この点は、当学院のユニークな点だと思っております。
なぜかと申しますと、女性のリーダーシップ育成においては、一定期間の女性限定の環境は、学習効果をより高めることが出来るからです。私は、男女は同権だけど同質ではないと考えます。男性と女性は学ぶべきところが違うのです。女性が苦手なプログラムも積極的に学び、男性脳も使えることを取り入れています。言われたことを完璧にやること、誰かの期待に応える事だけではなく、本当の主体性を学びます。女性ならでの強みや得意なプログラムを強化し自信もつけます。社会と組織と自分の繋がりや意味づけを認識し内省力をつけ自己理解を深め自分軸を構築します。
また、性差役割意識の既成観念やマイノリティ意識により、一歩引いてしまう行動により好感を得る癖や、自分を自己限定したり、過小評価する傾向などもあります。或は、男性のように働くことで1人前という前提からのプレッシャーや、子育てと仕事で揺れる罪悪感などをお持ちの方もおられます。これらは個人、企業環境や年代によっても大きく変わりますが、マイノリティである働く女性の複雑な事情などが少なからず存在することもあるのです。
そういった日常からのOUT OF BOX。箱から脱却して、複雑な事情から自らを解放します。男性はいないので、誰も重い荷物は持ってくれず、また誰にも遠慮せず、過度に場も読まず、自分のために開放しながら学ぶ経験は、少ない日数ですがなかなか有効です。自らを開放し、自分を見つめることで、本当の自分の主体性が立ち上がり、一気に学習にスピードが増すのですね。この感覚は特別だと思いますよ。
また、同じ場に男性がいるだけで「男女」となってしまいますが、女性限定での多様なチームや個人差に焦点を置くことにより異質や多様性を深く理解しやすく、真のダイバーシティを認識に早く近づける効果もあります。
可能性を眠らせている女性はたくさんいて、その方たちを育てることで企業はぐっと伸びていくんです。自然にロールモデルになっていくイメージでしょうか。現在は大分浸透してきたので、一部のプログラムは男女どちらも受けられるようにしていますよ。

――可能性が眠っている女性を目覚めさせる、ということですね。河北さんは、会社員時代はどんな方だったのですか?
新入社員のころは、やりたいことが全然決まっていませんでしたね。不安がいっぱいでした。だから、人が求めているものに応えよう、と思っていました。でもある時、がんばって改善提案の資料を作り、上司に提案をしたのですが「そんなに頑張らなくていいよ。女の子なんだから、ほどほどでいいんだよ」って言われてしまったんです。え?そうなの?と正直驚きました。ほどほども、女の子だからも初体験(笑)。そして「別に相手に悪気があったわけではない。それより自分はどうしたいんだろう?」と思うようになりました。その頃から、常に「仕事って何か?自分はどうしたいんだ?」っていう考え癖がついたのかもしれません。

――自分の意思というものを大切にされていたんですね。なかなか思い通りにいかず、仕事に詰まってしまっている人もいると思います。もちろんこういった悩みは女性には限らないのですが、仕事を面白くするコツなどありますか?
私は自分がワクワクしない管理部や経理部など、いくつかの向いていない部署を経験しましたが、仕事をゲームのように捉えるということをしていました。ゲーム仕立てでモチベーションをつくるんです。例えば経理で数字を扱うときも単に計算するだけではなく「3つ解決方法を考えよう」「どうやったら半分の時間でクリアできるだろう」とか、そんな風にゲーム感覚でルールを決めてクリアすると面白くなったりしました。やっぱり人間得手不得手があるとは思うのですが、捉え方で仕事への向き合い方を変えられるんだな、って気づきました。また、人と自分は違う事。違ってよいこと。自分は他人の人生を生きられないんだと、その頃はあくまでも漠然とですが理解していました。

――ユニークな捉え方、考え方ですね。日本初の女性向けのビジネススクールということで大変な面も多かったのではないですか?
プログラムやこういう教育をしたいという思いはありましたが、トレースできるものがなかったので、市場に受け入れられるのかという不安はありました。そんな中、たくさんの有識者の方の前でプレゼンテーションをさせて頂く機会があったんですね。その時、沢山の厳しい質問をいただいたこと、今も忘れません。本当に感謝です。その機会がなかったら、GOしなかったかもしれません。
その質問により、私の思考がクリアになっていき、迷っている課題を明確にできたりしました。

――そのプレゼンテーションが背中を押すきっかけになったのですね
不安だから意見を聞こうとすると「お客様や周囲の意見ばかりに迎合してはいけない。人はいろんなことを言う。君が本当にこうだと思っているコトをしっかり考えなさい磨きなさい。それが成功の要因だ」と言われたことを強く覚えています。その言葉に背中を押されて、どこか自信がなかった自分のもやもやの霧が晴れたのです。「自分の理想を創っていいんだ」という勇気、そしてスイッチを入れるきっかけを頂きました。その機会に今も心から感謝いたしております。
そして勇気と信念をもって話すと、たくさんの人が協力してくれました。第一期生の時は実績がないのに、たくさんの企業様、個人の方が入校してくれました。もちろん女性活躍推進のタイミングもありましたが、新聞もたくさん取り上げてくれて、嬉しかったですね。ビジョンや思いがあって、心を込めて伝えると誰かが助けてくれるって心から感じました。新聞記事を握りしめて「こんな学校があったなんて」って言って遠方から入校してくれる方もいました。

――賛同する方もたくさんいらっしゃったのですね。どのような受講生が多いのですか?
現在は、土曜日開講のリーダーシップ総合養成コースと、仕事帰りに学ぶ丸の内スクールがあります。総合養成コースは、やはり次のステージにいきたい、自ら変化しなければと意欲ある方や、企業様から派遣されてくる管理職候補生等で構成されています。割合は企業派遣77%個人申込み23%です。20代から50代まで多様な業種業界から全国からお越しになりますが、一般社員から、チームリーダー、管理職の1、2歩手前、管理職、経営層など階層も様々であり、共に切磋琢磨する家族のような、戦友のようなネットワークの受講生にとって魅力です。
一方、仕事帰りに学ぶ丸の内スクールは、居心地よい空間の丸の内会場にて、1講座から受けられる手軽さとオープンさが新鮮です。この1月から、ニーズに応え男女共学へと移行しております。
当学院は、キャリア育成、リーダー育成ですが、よく「受講生はきっとすごい女性ばかりなのですよね?当社の社員などついていけません、まだまだですよ。」とおっしゃる方がいらしゃっいます。勿論、受講生は優秀な方ばかりですが、一人ひとりその理由は違えども、はじめは皆、不安や自信のなさが見え隠れします。試行錯誤しながら仕事に、自分の人生に、悩みながら懸命に日々邁進する、一人の普通の働く女性ですよ。イキイキと自然体で学ぶ姿をご覧になり、ちょっと引いていた方も安心されるようです。一流で多彩な講師陣による授業と一皮も二皮も成長していく受講生の様子は本当に感動です。いつでもお気軽に見学できますので是非いらして下さいね。

学ぶ女性の変化とは?

――御校は、受講者にとってどのような場になっていますか?
例えば仕事ではリーダーであり、家庭では母であり、奥さんであり、という風に、いくつかの顔をもっている人がほとんどです。当校は自分のことを見つめなおす場所になっていると思いますね。それぞれ置かれている状況や環境が異なるので、半年間かけてリーダーシップを学ぶコース、単科コースなど、できるだけ柔軟にコースを選べるようにしています。我流で頑張ってきた方にとって、体系的に学ぶ機会は大きいと思いますね。
卒業してからは、仕事でも職場でもない、新しい居場所、サードプレイスとなっています。嬉しいですね。

――受講者には、どのような変化が見られるのですか?
上司の声としては「確実に目線が上がったが、肩の力が抜け頼もしくなった」「仕事の抱え込みや不安定さはなくなり、チームで達成する力が増した」「自分とのコミュニケーションが良くなり、もっと情報を与えていこうと思うようになった」「腰据えてチャレンジしてくれるようになった」「とにかく楽しそうに仕事するようになった」。
本人の声としては「世界が広がった」「いろんなやり方があるんだ」「仕事と子育ての両立の道筋が見えた」「自分を知ることができ、自分らしいリーダー像が見えた」「上司のこれまでの言葉の意味が腑に落ちた」「自信が出来た」という言葉を多く頂きます。
女性は確かに仕事と家庭の両立に悩む方も多いですが、視座や視野をぐっと拡張させ、社会性を学ぶことがうまく両立できるヒントに繋がります。それは確実に幸せに繋がりますし、その幸せを子どもにも伝えることができる。ただその接続の仕方を知らない。仕事か、家庭か、という発想になってしまいます。その辺が学びや実践、対話を通してリンクすると安心してくれますね。
また、そもそも女性は支援型のリーダーシップは得意な方が多いんです。ただそれだけはなく、きちんと全体観や戦略性をもつ必要がある、ということを伝えています。そうすると、視野が広がって「自分の会社ってすごい」「会社のリソースをつかって何かできないか」「社会に対してこういうことをやってみたい」といった発想になってきます。前向きな捉え方ができるようになり、自己肯定感が上がり、会社を誇りに思い、絆を感じられるようになっていきます。

(本インタビューは2018年1月に行われ、インタビュー内の情報は当時のものです)

これからのビジョンについて

集合写真

――学校を立ち上げて3年になろうとしています。振り返ってみてどうですか?
まず、環境がだいぶ変わってきました。ばらつきも大きいですが、総じて女性の力ってやっぱり大事だね、とみんな言えるようになったと思います。過去は「女性の育成」というとウーマンリブ的に捉えられることも多かったのですが、今はないですね。女性というだけで蔑視されたときもありましたが、今はきちんと向き合い始めていると感じます。当校の受講生も200名近くなりました。社会にイノベーションを起こす女性をもっともっと増やしていきたいですね。
――今後のお考えをお聞かせください。
「女性リーダーを育て輩出することにより、社会にイノベーションを」まさに一歩一歩の歩みですが、確実に時代は変化しつつあります。女性活躍推進やダイバーシティという言葉は、初期段階では、仕方なくやらねばならないものという、マイナスをゼロにすると捉える方も多かったですが今は、それだけではありません。ゼロからプラスへという観点も認識されています。女性の力を活かした製品、成果はもちろん、CSRやブランディング或は経営戦略と紐づく生産性へ企業のメッセージとしても必要不可欠となってきました。また、人の可能性にエネルギーをかける企業がどうか等、学生の企業選択の際には必ずチェックしますね。
そしてこれからは、プラスの積み上げから、これまでの延長線上ではないイノベーションスパイラルへの展開が求められてゆくと思います。世界の平和の危機など複雑で困難な課題が横たわり、どこにも答えがありません。また、多様化推進、働き方改革、女性活躍は、我が国全体の課題でもありますが、世界共通の人類の課題でもあります。女性リーダーが関わるイノベーション創出は、簡単ではありませんが、実は一足飛びすることが出来るコンセプトだと思っております。
なぜならば、経済合理性と、人と組織と個人の繋がりを実感する地球市民としての社会的責任としてのスタンス、そして、人として幸福に共生し合うあり方、女性自体が生命を生み出す身体であることも加え、これらの全てを包括し、調和させ持続的に循環するなどすべての要素が含まれているからです。
女性リーダーを育て輩出し、社会的イノベーションの種を創出するプラットフォームを将来創ることが出来たなら、素晴らしいと感じております。
ですから、女性活躍という社会課題解決が終わって終了する、ではなく100年続く学校を創っていきたいですね。ただそれは単に学校という箱だけではありません。変革しつつも、今後の展開をさらにいろいろ模索していますので、どうぞ楽しみにしていてください。

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